筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーション

国立病院機構八雲病院小児科 診療部長 石川悠加

2016年1月より、ラトガース・ニュージャージー医療歯科大学神経科学科兼リハビリテーション科教授で、神経筋疾患の呼吸リハビリテーションの先進者であるバック先生のウェヴサイト(www.breatheNVS.com)が公開されました。世界地図で神経筋疾患の呼吸リハビリテーションセンターが紹介され、当院もその一つです。講演会、自分たちで計画した勉強会などで、終日NPPVの方も多く集まります。当院と深い交流を重ねるJA長野厚生連鹿教湯三才山リハビリテーションセンター三才山病院(黒岩靖センター長)の終日NPPVの神経筋疾患患者さんともスカイプで情報共有。

 

根本治療のスタートラインはどこ?

デュボヴィッツ先生、リコッティ先生達は、現在、遺伝子治療など根本治療の開発をするにあたって、スタートラインとされる〝DMDの自然歴”が大きく違ってきていることを初めて世界的に学術的な視点で指摘しました。遅配の大きな“現在可能な治療による経過”のどこを根本治療のスタートラインにしたら良いのでしょうか?“現在可能な治療による経過”が一定でなければ、根本治療の効果を判定できないことになります。そのyためには、DMDの国際ガイドラインに紹介されている呼吸リハビリテーション、心筋症マネジメント、車いすや必要なアシスティブテクノロジー、熟練したケアを高める必要があります。そして、コミュニティや教育環境などで、DMDの子どもから青年まで、自尊感情がしっかり育まれることが望まれます。

 

「難病飛行」という本の舞台化

平成28年1月17日、兵庫県三田市総合福祉センターで「難病飛行」(蔭山武史著)の舞台が行われました。主人公はDMDのため、29歳の時、「気管切開か死」を選ぶことになり、気管切開で声を失いました。その後、誤嚥性肺炎の予防のためと胃ろうも勧められましたが、回避し、40歳を過ぎた今も経口食で体重が維持されています。その経験から、自分のように声を奪われないためにと、気管切開をしない人工呼吸であるNPPVの技術の普及を提言しています。主人公は現在NPO法人もみの木(ホームページに事務局公開)を通じて、「生きていくこと、呼吸すること」をテーマに活動を行っています。わずかに動く指でパソコンに一文字一文字特殊なスイッチで入力し、メールや講演会、チャリティーコンサート、演劇を企画、開催しています。また、主人公は、青年期に生命維持のために家族ともども危機を乗り越えた体験があるからこそ、「人間らしく生きること」を追求できる“今”という時間は「わくわくする」そうです。

 

「夜バナ」文庫本の映画化

「こんな夜更けにバナナかよ」(渡辺一史著)は、2003年に北海道新聞社から発刊後、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞し、東大生の読むべき本5冊に選ばれたこともあります。2013年に文藝春秋社から文庫本として出されました。解説は、脚本家の山田太一さんです。これを、映画化するという話が持ち上がっています。この第5章の最後には、当院からの帰りの車の中で、著者の渡辺氏が「医学の進歩で寿命は延びた。すると今度は。動けなくなってからの長い現実に向き合わなけらばならなくなる。つまり、どう生きるのか、という重たい問いに-----。それは、筋ジス患者のみならず、今はとりあえず健常者として生きている私とて同じことなのだろうが-----」と書かれています。近年、気管切開からNPPVの活用が増え、さらに呼吸リハビリテーションの環境整備が求められるのです。

 

おわりに

2015年に、米国専門家会議で、筋ジストロフィーのQOLに関して信頼できるデータはほとんどなく、病気の進行に伴う変化を評価できていないと指摘されました。筋ジストロフィーの個人のQOL評価を促進するため、新たな評価スケールの研究開発が必要と言われています。呼吸リハビリテーションをはじめ、全ての医療の指標として重要なQOL評価が開発されることで、医療の進歩の促進につながると期待されています。